2014年9月30日火曜日

MJOに関わる論文をまとめるためのページ

- A List of Investigations on the MJO

MJO (Madden-Julian oscillation,マッデン・ジュリアン振動) とは,活発な積雲群がインド洋から西太平洋の熱帯域を非常に遅い速度(約5 m/s)で東進することで特徴的な,30-60日周期を持つ熱帯季節内変動である.
Madden and Julian (1971, 1972) による発見以来,MJOについての研究は非常に数多くなされてきた.
しかしながら,MJOはなぜ遅く東進するのか,そもそも何者なのか,今でも論争は絶えない.
MJOの議論が終わらないものだから,教科書にもそれらしいことは書いていない.
というか,まだ教科書には書けないレベルのMJOの理解にとどまっている.
(そもそも最新の熱帯大気の良い教科書というのがなかなか無いのだが.)

Chidong Zhang (2005) がMJOについてのレビュー論文を出版した.
しかし,それ以降もMJOの研究は非常に盛んになされており,理論的研究に関する記述は既に古いものにとどまると考えられる.
観測的な理解も,CINDY/DYNAMOや衛星データの利用を始めとしてさらに進んでいる.
また,いくつかの数値モデルで現実的なMJOを表現することに成功したのも最近のことである.
おそらく最も最新のMJOについて情報を詳しく幅広く集めた文献はこれだろう:
Lau and Waliser (2012): Intraseasonal Variability in the Atmosphere-Ocean Climate System, 2nd Ed.
http://link.springer.com/book/10.1007%2F978-3-642-13914-7

本ページでは,主要なMJO研究論文を多くまとめることを目指す.
特に,数値モデルを用いたMJO研究についてまとめる.
さて,今のMJOの研究はいったいどういう方向に進んでいるんだろうか?


個人的に,MJOの研究で問題なのは
  1. MJOはなぜ遅く東進するのか
  2. はたしてMJOは波なのか
  3. なぜMJOのモデルシミュレーションが困難なのか
だと感じている.


Key words: Madden-Julian oscillation (MJO), slow eastward propagation, moisture mode, wave-CISK, convectively-coupled Kelvin wave, self-aggregation
原則以下のスタイルで記す↓
  著者(年, 雑誌略称): 論文タイトル
  個人的解釈
  URL
  #個人的コメント
注意: 本内容を鵜呑みにしないこと.またリストには個人的趣味が強く反映されていることが考えられる.
(Still Under construction... まだまだ不足.メモを兼ねて暇な時に加筆更新します.)


MJOの遅い東進 - Slow Eastward Propagation

MJOは約5 m/sで暖水域赤道帯を東進する.
同じ東進性の擾乱であるKelvin波と比べて非常に遅い.
対流結合Kelvin波で説明しようとすると,かなり工夫しないと位相速度はここまで遅くならない.
水蒸気モードのような対流として説明しようとすると,平均流や放射,水蒸気の非一様性などに位相速度は強く依存する.
斬新だが,重力波の干渉や,亜熱帯西風赤道側の(中緯度)Rossby波としてMJOの遅い東進を説明しようとする試みもある.
以下のリストをご覧のとおり,2014年現在でもなお,全く議論は終わっていないのである.


Sobel and Maloney (2013, JAS): Moisture Modes and the Eastward Propagation of the MJO
いろんな効果を含めたら,基本場西風で現れる水蒸気モードが(ほぼ停滞だけど)東進.あとは基本場に流される.
http://journals.ametsoc.org/doi/abs/10.1175/JAS-D-12-0189.1

Sobel and Maloney (2012, JAS): An Idealized Semi-Empirical Framework for Modeling the Madden–Julian Oscillation
基本場に相対的に西進する水蒸気モードが地表と相対的に東進.
http://journals.ametsoc.org/doi/abs/10.1175/JAS-D-11-0118.1

Pritchard and Bretherton (2014, JAS): Causal Evidence that Rotational Moisture Advection is Critical to the Superparameterized Madden–Julian Oscillation
回転運動による水蒸気移流を意図的に強めたらMJO (水蒸気モード)がより速く東進.
http://journals.ametsoc.org/doi/abs/10.1175/JAS-D-13-0119.1
#通常のSPCAM (α=1)で現れるMJOの東進は説明されていないのでは?回転運動による水蒸気移流を強めたらMJOがロバストに速く東進するのは分かるけど.他の論文で既に説得的に説明されているのかな?

Maloney et al. (2010, JAMES): Intraseasonal Variability in an Aquaplanet General Circulation Model
CAM w/RASによる水惑星実験で,風-蒸発フィードバック (WISHE)によって不安定化する水蒸気モードが現れ,擾乱と基本場西風によるhumidity偏差の水平移流に伴って5 m/sで東進.
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.3894/JAMES.2010.2.5/abstract
#SST南北勾配を弱めた実験の東進擾乱は,なんで南半球,SPCZあたりだけに偏っているんだっけ?モデルで得られる東進擾乱は現実的なMJOではないが,提案するメカニズムは現実のMJOの東進を説明できそうという具合に補足説明されている.

Yoshizaki (2013b, SOLA): Why do Super Clusters and Madden Julian Oscillation Exist over the Equatorial Region?
NICAM水惑星実験でSSTの東西方向の非一様性を与えたら,MJOみたいな遅い東進擾乱が現れた.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sola/8/0/8_0_33/_article

Lau and Peng (1987, JAS): Origin of Low-Frequency (Intraseasonal) Oscillations in the Tropical Atmosphere. Part I: Basic Theory
非断熱加熱によって2つの傾圧モードの鉛直構造が一致し,不安定モードが現れる("mobile" wave-CISK).Kelvin波が選択的に増幅されるので,Kelvin波として東進する.位相速度は与える加熱の鉛直構造および大きさに依存しており,下層で大きいほど遅い.
http://journals.ametsoc.org/doi/abs/10.1175/1520-0469%281987%29044%3C0950%3AOOLFOI%3E2.0.CO%3B2
#位相速度は対流結合Kelvin波に相当するもの.MJO相当に遅くするためには,不自然なほど加熱のピークが下層にある必要がある.

Bin Wang and Liu (2011, JAS): A Model for Scale Interaction in the Madden–Julian Oscillation
地表摩擦による下層収束によってKelvin波が成長するが,渦による運動量輸送がRossby波を増幅させるので,遅く東進する.
http://journals.ametsoc.org/doi/abs/10.1175/2011JAS3660.1

Majda and Stechmann (2009, PNAS): The skeleton of tropical intraseasonal oscillations
MJOのような遅い東進モード(MJO "Skeleton")を水蒸気と対流活動度との関係を仮定することで作った.
http://www.pnas.org/content/106/21/8417

Majda and Stechmann (2011, JAS): Nonlinear Dynamics and Regional Variations in the MJO Skeleton
遅く東進するMJO "Skeleton"に"muscle"を与えた.
http://journals.ametsoc.org/doi/abs/10.1175/JAS-D-11-053.1

Wu (2003, JAS): A Shallow CISK, Deep Equilibrium Mechanism for the Interaction between Large-Scale Convection and Large-Scale Circulations in the Tropics
浅い対流が不安定な場を作り深い対流がたち,それらは浅い対流の等価深度に対応する重力波速度で東進するだろう.
http://journals.ametsoc.org/doi/abstract/10.1175/1520-0469(2003)060%3C0377%3AASCDEM%3E2.0.CO%3B2

Yang and Ingersoll (2013, JAS): Triggered Convection, Gravity Waves, and the MJO: A Shallow-Water Model
重力波の干渉が遅い東進を作り出す.
http://journals.ametsoc.org/doi/abs/10.1175/JAS-D-12-0255.1

Adames and Wallace (2014, JAS): Three-Dimensional Structure and Evolution of the MJO and Its Relation to the Mean Flow
約28度N/S西風赤道側を導波管として西風と相対的に西へ伝播する惑星規模Rossby波(赤道Rossby波ではない!)が,固体地球と相対的に東進するのがMJOとして現れるのでは.
http://journals.ametsoc.org/doi/abs/10.1175/JAS-D-13-0254.1


Kerns and Chen (2014, MWR): Equatorial Dry Air Intrusion and Related Synoptic Variability in MJO Initiation during DYNAMO
Rossbyジャイアが西へ離れていくが,その東で異なるジャイアが成長し,包絡線としては東へ伝播する.
http://journals.ametsoc.org/doi/full/10.1175/MWR-D-13-00159.1
#まだ読んでないけど,上記説明は学会のときにChenさんから直接聞いたことで,たぶん本文にそう書いてある(はず).


#まだまだたくさん


MJOは対流であろう - Convection

Bretherton et al. (2005, JAS): An energy-balance analysis of deep convective self-aggregation above uniform SST
観測されるMJOの水蒸気や対流,放射,海面フラックスの相関はself-aggregationシミュレーションのものと類似しており,その対流は(きっと)β面における力学によって東進.
http://journals.ametsoc.org/doi/abs/10.1175/JAS3614.1
#東進メカニズムについては議論されていないが,対流がβ面での力学によって東進するという記述は興味深い.

Raymond and Fuchs (2009, JC): Moisture mode and the Madden-Julian Oscillation
MJOを駆動するのは水蒸気モード不安定である.
http://journals.ametsoc.org/doi/abs/10.1175/2008JCLI2739.1
#彼らは多くの論文(殆どJAS論文)で水蒸気モードと対流結合重力(Kelvin)波とを区別してきており,その水蒸気モードこそがMJOと考えている.古くからなされてきたwave-CISK関連の議論(MJOは赤道Kelvin波を対流とかRossby波とかで修正したものである)と異なり,MJOは波ではなく,対流を本質としていると主張している.



MJOは波であろう - Wave

Roundy (2012a, JAS): Observed Structure of Convectively Coupled Waves as a Function of Equivalent Depth: Kelvin Waves and the Madden-Julian Oscillation
対流結合したKelvin波の等価深度を浅くしていくと,構造も位相速度もMJOみたいになる.
http://journals.ametsoc.org/doi/abs/10.1175/JAS-D-12-03.1

Roundy (2012b, JAS): The Spectrum of Convectively Coupled Kelvin Waves and the Madden-Julian Oscillation in Regions of Low-Level Easterly and Westerly Background Flow
MJOと対流結合Kelvin波との間にスペクトルに東風基本場ではギャップがあるが,西風基本場ではギャップはない.
http://journals.ametsoc.org/doi/abs/10.1175/JAS-D-12-060.1




現実的なMJOシミュレーション - Realistic Simulation

Kuang et al. (2005, GRL): A new approach for 3D cloud-resolving simulations of large-scale atmospheric circulation
雲解像モデルで東西非対称としたらMJOが出たけどまだ調査中.
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2004GL021024/abstract
補助資料:http://www.cmmap.org/research/docs/jul05/kuang.pdf
#上記補助資料には,彼らのモデルで現実的なMJOが出たことが記載されている.

Miura et al. (2007, Science): A Madden-Julian Oscillation Event Realistically Simulated by a Global Cloud-Resolving Model
NICAMで現実的なMJOが出現.
http://www.sciencemag.org/content/318/5857/1763

Miyakawa et al. (2014, Nat. Commun.): Madden–Julian Oscillation prediction skill of a new-generation global model demonstrated using a supercomputer
NICAMでMJOの約1ヶ月予測が実現可能であることを実証.
http://www.nature.com/ncomms/2014/140506/ncomms4769/full/ncomms4769.html
プレスリリース: http://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20140507/
Supplementary info.: http://www.nature.com/ncomms/2014/140506/ncomms4769/extref/ncomms4769-s1.pdf
#NICAMの54メンバー・アンサンブル平均データが興味深い.Supplemental infoの図5,6において,特にインド洋で,NICAMはロバストな西進シグナルが見えるのが気になる.熱帯低気圧やRossby波みたいな渦擾乱の西進が出過ぎ?

Haertel et al. (2014, QJRMS): Lagrangian overturning and the Madden-Julian Oscillation
対流パラメタリゼーションにLagrangian overturningを用いると現実的なMJOがロバストに得られた.結果はモデル解像度に敏感ではないが,位相速度はSSTに敏感.
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/qj.2216/abstract

Genio et al. (2012, JC): The MJO Transition from Shallow to Deep Convection in CloudSat/CALIPSO Data and GISS GCM Simulations
湿った空気をより取り込むように設定するとMJOがGISSモデルでより現実的に現れる.
http://journals.ametsoc.org/doi/abs/10.1175/JCLI-D-11-00384.1

Miura et al. (2012, SOLA): A Comparison of the Madden-Julian Oscillation Simulated by Different Versions of the MIROC Climate Model
湿った空気をより取り込むように設定するとMJOがMIROCモデルでより現実的に現れる.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sola/8/0/8_2012-040/_article


他 - Others

MacRitchie and Roundy (2012, JAS): Potential Vorticity Accumulation Following Atmospheric Kelvin Waves in the Active Convective Region of the MJO.
Kelvin波での活発な対流が渦位を生み出し,Kelvin波が通過したあとで環境場に渦位を残し,それがMJOの渦位の一部となる.
http://journals.ametsoc.org/doi/abs/10.1175/JAS-D-11-0231.1

Adames and Wallace (2014, JAS): Three-dimensional structure and evolution of the vertical velocity and divergence fields in the MJO.
MJOの3次元構造と鉛直速度および発散の場の時間発展を調査.
http://journals.ametsoc.org/doi/abs/10.1175/JAS-D-14-0091.1
#未読

Deng et al. (2014, JAS): The MJO in a Coarse-Resolution GCM with a Stochastic Multicloud Parameterization.
http://journals.ametsoc.org/doi/abs/10.1175/JAS-D-14-0120.1
#未読