2011年11月6日日曜日

研究発表のSimplicity

プレゼンはシンプルに,伝えるべきことを伝えなくてはならない.内容を取捨選択し,必要な部分のみを残してプレゼンする.モノを売るなら多少オーバーでも良いかもしれないが…,


研究発表では
「シンプル」が許されるのだろうか?


これらの答えを追求すべく,先日あるゼミを研究室規模で行った.
「伝わるプレゼンについて考える」

始めに「一般的なプレゼン」において,伝えるためには何が必要かを議論した.その後,以前紹介したが,ガー・レイノルズさんの「シンプルプレゼンのテクニック」のムービーを1時間程度参加者で見た.その後,「学会発表におけるプレゼン」において,どこまでSimplicityが許されるか話し合い,何が最も必要なプレゼン要素であるかを議論した.その結果,シンプルな一つの答えに落ち着いた.


「タイトル・名前・メッセージ」
+最低限の付け足し


ただし,
タイトル=最も凝縮した研究のアブストラクト
名前=調査したひと
メッセージ=研究の結果から皆に覚えて欲しい一つのこと
である.




この結論に至るまでの過程を以下に記す.


17:05~「Why? プレゼンとは何のためにするか」
これに関してはさらっと流したが,おそらく参加者の考えていたことの大筋は一致していただろう.もちろん,

相手に「伝える」ため

である.具体的には(一般的なプレゼンの例ではないが),伝えることで相手に自分の研究を理解してもらえる.理解してもらえて初めて,コメント・議論へと移ることができる.それによって研究が進展する,もしくは広まっていくのだ.伝えるためにプレゼンを行うという共通の意識ができたところで,直ぐに次の議題へと移した.

17:15~「How? どうやって伝わるプレゼンにするか」
伝えたいなら,どうすれば良いのか.これに対する答えは様々であった.大きくまとめれば以下のとおりだ.
  • 相手が誰か考える.(知識レベル,賛成or反対派)
  • 喋り方を意識する.(声のトーン,早さ,元気の良さ)
  • わかりやすい内容にする.(見やすい図表,少ない内容)
  • 相手に頭を使わせる.(質問の投げかけ)
  • 相手に安心させる.(良いストーリー性)
最も意見が集中したのは「相手が誰か」という点であった.プレゼンは自分ではなく相手のために行われる.したがって,相手に合わせて発表する必要がある.自分の分野を相手はどこまで知っているのか,もしくは自分の意見に反対するか賛成するかなど,相手を知ることでプレゼンの方向が決まってくる.どうすれば良いのかが難しい問題であるが.

また,喋り方で相手が興味をもつかが決まるという意見も多く出た.まず,元気がないプレゼンは,前に立った時から損していることになるという.なぜなら,多くの人はプレゼンターのことは知らない場合が多く,第一印象が悪ければ(内容に少しくらい興味があったとしても)聞く気は自然と無くなるかもしれないからだ.はじめから聞く相手を失うのはもったいない.
特に気をつけるべきなのは,笑顔と「音程」(男性は低すぎず,女性は高すぎず)だ.また,オーディエンスの方を向いて堂々と挨拶したほうが良い.次に,喋り始めたら,その早さに気を付けなくてはならない.早過ぎる話し方はあってはならず,むしろ大事なところでゆっくり話すくらいの余裕が欲しいものである.一度,自分のプレゼンを録音してみるといい.頑張って緩急つけたつもりでも,意外と普通,むしろ早過ぎるくらいかもしれない.

相手に頭を使わせるのは,覚えてもらう意味で重要なポイントだ.「皆さんはどう思いますか」とさり気なく投げかける.実際に答えさせる必要はないが,「はて?」と考えたオーディエンスはその質問を覚えるだろうし,その後のプレゼンにもより集中してくれるかもしれない.試す価値はあるだろう.

良いストーリーを持たせることも忘れてはならない.次に何が飛び出すかわからない発表はオーディエンスを不安にさせる.良い意味でワクワクすればいいが,不安にさせては逆効果で,心を開いてくれなくなるかもしれない.そうならないために,「次はこう来る」ということをそれとなく相手が感じ取ってくれるプレゼンを心がけるのが無難だ.完全にワンパターンでは飽きられてしまうと感じるなら,ときどきアクセントを加えて,伝えたいことを印象に深く残していけばいいだろう.



意見は止まなかったが,本題はこれではないので速やかに次に移った.

17:40~「シンプルプレゼンのテクニック」
このムービーは何度でも見る価値がある.参加者が必死にメモを取るのは当然かも知れないが,私自身もスクリーンに惹きこまれた.何度も見ているうちに,プレゼンをムービーの内容から学ぶ以上に,ガー・レイノルズさんから学ぶようになる.本当に良いプレゼンをしている.

この間に,先ほどの議論とムービーの内容がリンクしていて面白いと思ったのは私だけではないはずだ.本気で議論すればこの内容に匹敵する意見は出てくる.それをプレゼンに実際に移せるかどうかが大事な事であり,このムービーで意識を焼き付けることができたなら幸いだ.


さて,本題に移ろう.

18:40~「Simplicity for us 研究発表はどこまでシンプルにできるか」

研究発表としてのプレゼンはどうあるべきか.シンプルにしすぎてはマズいのではないか.これについて考えるために今回のゼミを行った.議論は予定時刻を大きくずらすほど続き,意見も多岐に渡った.そのまとめとしては,先に述べた結論を説明するという形に留め,それ以外に気になったコメントを最後に付け加えておく.

まず,研究発表としてのプレゼンに最低限必要なのは,


「タイトル・名前・メッセージ」


の3つである.この結論は,「AからBへ」という具合に,プレゼンを終えたときにオーディエンスにどうなっていて欲しいかという考え方に基づいている.何よりも,相手に自分が何をしたのかを知ってもらわなくてはならない.何も知らずに難しい話を聞くのは苦痛だから,場合によってはプレゼンター-オーディエンス間に距離が生じ,最悪の場合,聞いてもらえないかもしれない.これではプレゼンの意味が全くなくなる.そうならないためには「タイトル」を十分利用する必要がある.タイトルを,「自身の研究内容を最も端的に表した一文」としてとらえると良い.すると,タイトルを見たときに何をやったのかが分かり,興味を持ってくれたオーディエンスとの距離は縮まるだろう.次に,誰が研究したかを知りたくなるはずだ.名前と所属を言えば十分だ.あとは,笑顔で元気に挨拶して話し始めればいい.そして,ここからはテクニックも関わってくるが,何を最も伝えたいかをひとつのメッセージとして始めに言ってしまうのだ.

「私は○○を研究したんだが,それによって□□という面白い結果が得られた.」

ガー・レイノルズによると,オーディエンスの集中力が高いのは初めと最後である.したがって,初めのうちにメッセージ,すなわち何を覚えて帰って欲しいかを伝えてしまうのが有用である.もしそこで「心から興味がない」と思った人は一切聞かないかもしれないが,このような相手は放っておけばいい.そうではなくて,「えぇー,面白そう」と思う人が増えたなら大チャンスだ.相手が「えぇー」となれば集中力が増す.最後まで頑張って聞いてくれる相手が増えたと思えばいい.

ここまででプレゼンの「綱」ができた.
(「綱」という例えだが,ある参加者が「AからBへ」という論理的最短ルートを「綱渡り」の「綱」に例えたのが面白かったのでここでは用いることにする.)
しかし,「綱」を渡るのは一般に,尋常じゃないほど困難を伴う.したがって,「吊り橋」程度に余裕を持たせれば渡ることができるオーディエンスが増えるのではないだろうか.「綱」に少しづつ「肉付け」していく.これによって,「何をしたか」から「何を伝えたいか」へと論理的に繋げる.ただし,この「肉付け」は多すぎてはダメで,必要最低限に留めるべきである.必要と思われるのは,

研究の動機・手法・必要な結果と考察

といったところであろう.研究の動機は,研究の結果がどれほどその分野にとって重要かをオーディエンスに理解してもらうのに必要である.また,手法は「最も理解して欲しい相手」のレベルに基準をおいて構成するのが良い.数値モデルやデータの細かい説明は必要ない場合が多い.しかし,相手が普段それらを使わない相手であったり,モデルやデータ自体がオリジナルである場合には詳細に説明しなくてはならないだろう.そして,結果はメッセージを信用してもらうために必要なだけでよい.それ以外を出す場合には,それを加えた理由にあった一言を,例えば「この結果は本筋から少しそれますが,コメントをお待ちしています」などと添えて出したほうが効率がいい.この方が相手も自分もわかりやすい.考察も論理的に必要なだけ説明する.そこまで済ませた後で,簡潔にまとめよう.まとめも,ダラダラ箇条書きで書くともったいない.図などで視覚的に記憶に残るスライドを一枚を用意するのが望ましい.どうしても箇条書きにしたいなら,視覚的に論理を追いやすいように「矢印」でつないでいくなどの工夫をしたほうがいい.文字の羅列ほど見苦しいスライドは,ない.

そして最後にもう一度伝えよう,
「メッセージ」を.

オーディエンスにひとつ,覚えて帰ってもらおう.



さて,これまでの議論のような削られた内容では全て伝わらないと不安になった人はいるだろうか.もしいたら,意識して欲しいことがひとつある.

「40分のプレゼンはFull storyでもよいが,それを10分で話せるわけがない.宣伝するという意識でプレゼンする方がいい.」
この内容は以前書いたが,まさに研究発表において当てはまる考えだ.全てを10分で話せなくたって,興味を持った人は終わったあとに質問するだろうし,コメントをくれるだろう.時間は足りないはずなので,セッション終了後に訪ねてくるだろう.そこで詳細な議論をかわせばいい.もしくは論文を読んでくれる場合もあるかもしれない.まずは,それほどの興味を持ってくれる相手を作ることだ.それが研究を伝えることの第一歩である.




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スライドが黒い服に写って
プリントにしか見えない.

ゼミが終了するまで,こんなにもシンプルな要素まで落とし込めるとは思っていなかった.たった3点で良いのだ.あとは必要なだけ,相手に合わせて継ぎ足していく.そうして完成したプレゼンを用いて,元気と笑顔とともに「メッセージ」を伝えればいい.

この結論には意義を立てる人はいて当然だと思う.実際に,研究発表のシンプル化は語っても語り尽くせなかったからだ.しかし,私はしばらくこの結論に基づいてプレゼンする.